寡黙な仕事人はいる。コーチングがどれだけ重要でもサッカーがうまくて、言葉少ないというタイプだ。おとなしくても、圧倒的にうまければ試合に出られないなんてことはないだろう。一般的に。
昔の中村俊輔は、どちらかといえばそんな孤高の存在だったと言われています。少なくとも味方に檄を飛ばし、鼓舞するような存在とは遠いイメージでした。
一方、いじられキャラというのがいます。若くしてレギュラーを勝ち取った場合でも、先輩からからかわれるタイプ。例えば齋藤学がそれに当たるでしょう。学の持っているキャラクターや、人の良さを周りが生かして雰囲気をよくする。これも組織を円滑に回していく上では必要なことでしょうね。
そして、圧倒的に輝いてしまうタイプの人がいます。元気印、いつも明るく振る舞う、という人為的で後天的にできる人もいますが、もう自然発光のような存在。明るくて、底抜けに明るくて、その人を前にすると多くの人が笑顔になってしまう。
中村俊輔は彼を「太陽」と称しました。22歳以下の日本代表に選ばれていた彼は複数のクラブの争奪戦となりましたが、中村俊輔が直接口説いたという逸話が残っています。
彼の名は比嘉祐介。そう、比嘉さんです。苗字の通りの沖縄産太陽で、流通経済大柏から流通経済大と、アマチュアのエリート街道を歩んできました。現鹿島の山村、現広島の増田らとともに、その年の新加入の目玉だったことは記憶に新しいところです。
まさに鳴り物入りでマリノスに入団。左サイドの五輪代表レギュラーです。38歳のドゥトラに負けるはずがありません。彼自身も、1年目から試合にバリバリ出て、五輪に選ばれ、日本代表への階段を上るイメージを描いていました。
ところが、マリノスのサイドバックには高い守備力が求められます。クロスをあげさせない、裏を取らせない、という守備での安心感がまず重要。比嘉さんの持ち味である攻撃参加をしようとすると、後ろを取られる。1対1で競り負ける。だから少しずつ攻撃になんで怖くて行けなくなり、比嘉さんの良さも発揮されず。大学では目につかない細かいミスがJ1では大きなピンチを招いてしまうというレベルの違いもあったことでしょう。歯車が狂ったのか、五輪代表の選考試合でも守備の不安を露呈し、レギュラーからメンバー外へとなってしまったのです。
課題の守備力を克服できずに、リーグ戦の出場は2年間でわずか1試合でした。その結果が、昨日発表された京都サンガへのレンタル移籍です。普通に考えると即戦力を期待された大卒ルーキーが2年間で実積ゼロとなると、レンタルも止むなしでしょう。
しかし、彼は比嘉さんなのです。みんなの太陽なのです。彼は自分になかなかベンチ入りのチャンスすら巡ってこなくなっても、不貞腐れることもなく練習を続けました。とくに昨年の後半は守備の負担が少ない中盤に活路を見出し、フィニッシュの練習に多くの時間をさきました。
練習であってもゴールを決めると、独特のガッツポーズと、スタンドの見学者からは拍手喝采が起きます。私も何度も彼の練習を見てるだけで幸せな気持ちになったことがあります。だから来年こそは、攻撃的MFとして開花というストーリーを、彼も、ファンも信じていました。ナビスコの準決勝で途中出場したときの歓声、すごかった！
まさにこれからだったのに…。
ただ私が言いたいのは、仮に選手として戦力的には厳しい評価だとしても太陽にはもう一つの役割があります。それは他の選手の精神安定剤というか、
愛玩動物というか。とくに彼の存在を力に変えていたのは中村俊輔と栗原勇蔵でしょう。俊さんは、必ず練習時のパートナーに指名する、ファンの前で一発芸を振るなど、その寵愛ぶりは異常なほどでした。選手たちのメンタルケアを今後だれがするのか。リーグ戦のショックから短期で切り替えて天皇杯で優勝できたのは比嘉さんの存在があったからではないのでしょうか。
太陽はJ1のピッチに昇らなかった。サッカー選手でなかったら、なにをしてたんだろうという風貌。漢字が絶望的に読めないという大学の監督の証言。マンチェスターユナイテッド戦で香川真司よりも歓声が大きかった歴史的衝撃。そんなことを思いながら、我が家はお通夜のようでした。比嘉ロス症候群です。
ところが、「関西に住むのは初めてだから関西弁を教えてください」という京都のホームページに載った彼のコメントを見てずっこけました。太陽は居場所が変わってもただ輝き続けるのですね。
京都で愛されて、レギュラーとって、またマリノスに戻る権利を勝ち取ってほしい。本気で応援してます。
http://soccer.blogmura.com/f-marinos
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