レジェンドだったドゥトラが引退した時と同じように、世界で私が一番好きなフットボーラーの退団という節目を受けて、筆を執ります。
私や貴方がまだハタチそこそこの頃、すなわちまだシドニー五輪よりも前、日本で流行した有名な恋愛小説の書き出しに擬えると、こんなでした。
中村俊輔は、私たちの全てだった。
あの左足も、あの真っ直ぐな瞳も、不意に見せる少年のような笑顔も。
もしもどこかで俊輔が辞めたら、私たちはきっと駆けつけると思う。
たとえどんなに遠く離れていても。もう二度と同じチームにいることはできなくても。
「もう二度と」
引用元の小説を読んだ時、私たちマリノスサポーターの多くは、中村俊輔との別れは即ち、現役生活のピリオドと同義と思っていました。ですから、「二度と」、という表現がしっくり来ました。
今の私の願いは、貴方がトリコロールの10番を三度背負うことです。
2018年、貴方は40歳になる。恐らくそれがラストシーズンなんですよね。新しいクラブと2年契約? 今年のオフ、貴方はやはり違約金を払ってでも貴方に訪れるであろうマリノスのオファーを受けるべきだ。そして、マリノスはこの1年全力で貴方に胸を張ってオファーできるクラブに再生しなければならない。
2010年、イタリア、スコットランド、スペインを渡り歩いた貴方はまだほぼ全盛期の姿で日本に、横浜に還って来てくれました。貴方が見聞きしたものをマリノスに還元するために。まだマリノスで果たしていない優勝を遂げるために。
世間には意外な選択であり、確かに同年に控えたW杯のためでもあったかもしれない。あるいは前年に帰国が有力視されながらもエスパニョールに渡ったことを良しとしないサポーターもいました。残念ながら私は当時の経緯をよく知りません。
ただ無邪気に、その年、愛する妻との間に生まれて来た長男に「しゅんすけ」って名前を付けたんです。あ、その話は、過去二度に渡って直接お目にかかった際に、お伝えした通りです。まあ、日本全国津々浦々に、貴方の影響でしゅんすけと名付けられた子はいるはずですけども。
やがて我が家の週末は、貴方を観に行くことが中心になっていきます。明らかにマリノスを、中村俊輔を追いかける前と後では、家族の団結力が変わったのです。
2012年、年末に熊谷で浦和と天皇杯を戦った頃から、俊輔が引退するまでとにかくこのプレーをまぶたに焼き付けようと私は突然マリノスサポーターになりました。
そして13年の快進撃。後一歩で優勝を逃してしまいましたが、MVPは中村俊輔の手に。さらに天皇杯優勝は、忘れられないあの国立競技場。このブログを書き始めたシーズンのことを思うと、甘酸っぱい気持ちになります。
毎試合、マリノスの全ての試合が見られるスカパーを契約して、そのお世話になり始めても。
アウェイの試合をわざわざ観に行くなんて、酔狂で、時間と金の余った人がやるものだと思ってました。
年間チケットや、ユニフォームを買うなんて、無駄遣いだと思ってました。
同じ試合を二度も三度も見返すなんてあり得ない。
全部、中村俊輔のせいで、そうした常識は覆されたのです。
楽しかった。日本全国いろいろ旅をさせてもらったし、車の走行距離も、マイル貯蓄も、大幅に伸びた。行く先々に、素敵なマリノスとの数時間と、ご当地の思い出が詰まっています。
ああ、不思議。
今もはっきりと思い出せるんです。
味スタでの終了間際のダメ押しゴールの後、貴方のチャントを歌い続けた最高の約5分のこととか、吹田で東口を相手に叩き込んだエグすぎるフリーキックとか。あ、15年の鳥栖で復権を告げたアシストもカッコよかった。
名場面はもちろんホームでも同じですが、一つ一つそれを思い出していたら、書いていたら、おそらく開幕まで間に合わないでしょう。ですから、それは同じ時代に生まれたラッキーな目撃者の一人一人が語り継げばいいのでしょう。
これからも、中村俊輔が出る試合には多く名場面ができるはずです。
開幕戦こそ対戦カードが違いますが、敵として日産スタジアムに貴方が帰ってくるのを思うと、胸が締め付けられます。あのチャントも歌うことができない。
NHKやら、スポーツ紙の一面を眺めると、この移籍の衝撃の大きさを改めて客観的に見せつけられる気がします。
どうして、こうなった?
どうして?
中村俊輔がシャーレを掲げる姿を追い求めた、私たちの旅は一旦ここで休止となります。
それでも、私は、私たちは、日産スタジアムで敵の選手としてではなく、三たびの奇跡を信じて、帰りを待ち続けてみようと思います。契約に復帰条項を盛り込もうとした、長谷川亨社長のささやかな抵抗を支持します。
俊輔選手、これまで本当にお疲れさまでした。
君は中村俊輔のプレーを見たことがないのか?と、私の生が続く限りできる自慢をいくつもくれて本当にありがとう。
残りの現役生活、少しでも万全の状態でプレーできることを祈っています。
マリノス戦以外での大活躍を願っています。
そして、また会いましょう。俺らの誇り。
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