古今東西、商売道具を大切にしない者に一流はいないと言います。
だのに私ときたら、毎日履いている黒の革靴の手入れは難しく、そして億劫。毎日同じ靴を履いていたら傷みも早いと分かっているのに、履きやすくて疲れにくい一足を履き続け、やがて履き潰してしまう。
[中村俊輔とスパイクとホペイロの物語](http://bylines.news.yahoo.co.jp/ninomiyatoshio/20160125-00053751/
)を皆さん、お読みになったでしょうか。二宮寿朗さんの書いた、俊輔のスパイクを通して描かれるマリノスのホペイロ、山崎慎の姿はどこまでも清々しく、本当に好きなことを職業に出来ることは幸せなことだと感じさせてくれます。
用具係と呼ぶと、地味で泥臭くて、キツイ仕事というイメージがあるが、慎さんの言葉と仕事ぶりからはただ仕事の楽しさしか垣間見えない。
でも、仕事は確かです。それは俊輔が仕事ぶりを見て、彼を認めるようになったことからも明らかです。人一倍、道具にうるさく、手入れも自分でしていた俊輔が、他人に任せるということは、履いた時のフィット感、感覚が優れたものであったということでしょう。その違いがわからないようなら、何も10足も20足もスパイクを揃える必要なんてありません。そうした繊細さがあるから、試合中にキックを修正するなんてことができるのですね。
インタビューで述懐に出てくる、2010年に俊輔が復帰した当初はスパイクを預けてもらえなかったが、徐々に一足、二足と手入れを任せてくれるようになった、というくだりがとても素敵ではないですか。
そして、この物語に出てくる主役のスパイクは、昨年の2ndステージ、G大阪戦のアディショナルタイムに俊輔が値千金の同点フリーキックを叩き込んだ時の「紫のスパイク」。
当初は履く予定になっていたものが、急遽、俊輔の指示で万博競技場に到着してから用意したという話も興味深いし、よく覚えているものですよね。
去年、フリーキックを決めた後に、ボールとの相性がよいと俊輔がコメントしたことが話題になりましたが、その大前提には厚い信頼を寄せるホペイロによって万全に用意されたフィット感抜群の靴の存在があったということになります。
明日の試合でFKが入るように磨いておいてよ、と日本一の名手に新しいスパイク(これが後のガンバ戦のスパイクだ)を託されて、翌日に「FKが入るように磨いておきました」などと何人が自信を持って、真剣に回答できるでしょう。
本当にうまくいくようにという魂を込めて、仕事に、物事に取り組めるでしょうか。
こんな話を聞くと、プロフェッショナルは監督コーチや選手だけではないですね。
このオフに、マリノスタウンという大事な練習場や設備を手放しましたが、人という財産はあります。
こだわらなくてはいけないものは、設備そのものより、新しい練習環境に、プロの仕事は、魂は込められているかということではないでしょうか。
マリノスタウンと同じく選手たちが誇れる拠点であるように、慎さんがスパイクを磨くがごとく、新練習場を磨くのは誰なのでしょうか。
魂の練習場、魂の用具、魂のフリーキック。なんかスピリチュアルに聞こえるかもしれませんが、だからこそ、俊輔のフリーキックは圧倒的なのかもしれません。
聞けば今年はアクシデントもなく、出だしから好調とのこと。開幕ダッシュはやはり彼の左足から始まるのでしょう。
今まで以上に今日は何色のスパイクかを注目していきたいですね。
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[{{image:520275,small}}](http://soccer.blogmura.com/f-marinos)
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