挫折から7年の時を経て、再びトリコロールを身にまとう。周りの人々は、シンデレラボーイなどと呼び、囃し立てるでしょう。
マリノスで一度は見出されずに埋もれかけた才能を見初めたのは、今季からトップの指揮を執るフランス人監督。潰えたはずの夢が再び動き始めたのは、この偶然の監督就任があったからでしょう。
所属する関東学院大がしばしば練習でマリノスタウンを使っていたことが縁となり、夏、練習参加を呼びかけられます。程なく強化指定選手の登録を受けて、J1の試合に出られる権利を得ます。
所属する大学のスケジュールなどの影響も受けるため、強化指定を受けたからと言っても、試合出場に絡まないケースもあります。いや、そちらのほうが圧倒的に多いかもしれません。
しかし、監督から彼、富樫敬真への評価は我々が予想していたよりも遥かに高く、けがで離脱した時期を除き一貫してベンチ入りを果たしてきました。
エリク監督は「我々は本物のフォワードを見つけた!」と、誇らしげに富樫を絶賛したことがあります。そこまで惚れ込む魅力とは何か。まだ我々には分かりませんが、片鱗はすでに見せてくれました。
結果として、プロ入りを大きく手繰り寄せた、FC東京戦での値千金の決勝ヘッド。85分過ぎまでスコアレスだった試合において、喉から手が出るほど欲しかった得点を、途中出場まもない大学生があげたことは我々の喜びであり、衝撃でありました。
このゴールをアシストしたのは、中村俊輔。20年前に、俊輔もまた、マリノスユースに昇格できないという共通の挫折経験を持っていました。
富樫自身の潜在能力、努力はもちろんのこと、そこにエリク・モンバエルツ監督と中村俊輔との出会いにより、彼のプロ人生は再び道が開かれたのです。
ところで、デビュー弾の直後には交わされるかも思われたプロ契約ですが、ここまで実に1ヶ月を要しました。
若手の育成に、実績と定評のあるエリク監督。しかも高い評価。その後もベンチ入り。神戸戦にも出場。監督は入団を熱望していたに違いありません。
ただすでにユースからの昇格も含め、大量4名の新卒獲得が決まっていたこと、既存戦力を織り込んだ来季の編成を整理する時間が必要だったからでしょうか。それとも契約する気がないなら、大学のリーグ戦に集中させてくれと、大学側からの要請があったからなのか。
もし、ラフィーニャが本調子でフル回転していたら、この話はなかったかもしれません。けが人が多く困っていたからこそ、白羽の矢が立った。本当に不思議な巡り合わせです。
3年間、高校で全国に名を轟かせた中村俊輔の例。小学校で横浜を離れたが同じく、東福岡高校で腕を磨きマリノス入団を果たした中島賢星。
そして新たに富樫敬真。マリノスの魅力、トリコロールの血。一つの大きなファミリー。
このような誇りと愛によってクラブの伝統は紡がれていきます。プレーする選手だけではなく、応援するサポーターもまた伝統の一員になれます。
今回の富樫の入団は、プロを夢見る若い後輩には大きな希望となることでしょう。
そして、富樫自身にはここからが本当の競争のスタートです。すでに日産スタジアムで見せてくれた勝負強さをいかんなく発揮してほしいと願っています。
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[{{image:520275,small}}](http://soccer.blogmura.com/f-marinos)
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