1年前、5月18日の等々力では11番のジャイアントジャージが揺れていた。齋藤学と大久保嘉人、対戦する両軍から選ばれたブラジルW杯行きのメンバーを壮行する声は、試合後30分ほどしても鳴り止まなかった。
ここはどう考えても学の投入だろ!と、マリノスサポのみならず、ツッコミを入れた平日の朝が懐かしい。最後の最後にザックに重用されなかった学は、W杯のピッチに立つことなく、再びマリノスに戻る。悔しさを晴らすように、復帰戦ではゴールを挙げたのだが、やがてチームの成績とともに目立たなくなってしまった。
学は一度歯車が狂うと、トップのパフォーマンスに戻すまで時間がかかるタイプだ。ブラジルから帰ってきて以降、ドリブルの爆発力や、ACLで見せた役者が違うような決定力は鳴りを潜めた。
普通の中に埋没してしまったのか。
まだ我々は、彼がブラジルから持ち帰ったものをはっきりと見た気がしない。ACLで決めた超人的なロングシュートやトップスピードで落ち着いて1対1を制したゴール、全く色褪せていない。
天皇杯決勝で、決勝点をあげたのも彼だった。ここ一番、学は切り札であり、スペシャルであり続けたのに。愛媛から帰ってきてからの五輪代表も含めた快進撃を思うと、結果だけ見れば停滞の1年に思える。
昨夏以降、代表の系譜はプツリと、マリノスから途絶えた。マリサポの中には、日本代表が発表される際に、期待すらしなくなり始めている人もいるだろう。だが今の代表のほうが、1年あるいは1年半前のザック後期よりもはるかにJリーグの選手が選ばれやすくなっているように思う。決して門は閉ざされてなどいない。
学の魅力を語る上で真っ先にあがる「緩急のあるドリブル」はこの際置いておこう。彼を「相手の守備ゾーンの継ぎ目をつくのが上手い」と評したのは小林祐三。
伊藤翔の欠場に伴い、アデミウソンが1トップに固定化されてからはボールを受けに行き、ゲームメイクする役割までこなしている。それも彼特有の視野の広さがあるから出来ることだ。
だが清水戦で試合を決める動きも久々に見せてくれた。ペナラインから横に切り込んで、中央に侵入。ディフェンスを置き去りにしてもなお横へ、横へ。
そのまま強引に撃つかと思えば、優しく足裏で後方の三門雄大にパスをする。そして生まれた先制点。お膳立ては完全に学だった。
いろんなことができる能力は分かるが、もっとエゴイスティックに、ゴール前でのゾクゾク感製造に集中してほしいと感じる。
学がボールを前で受けたときだけに起こる独特の盛り上がり。テレビではなくスタジアムにいる人なら、誰もが実感しているはずだ。他の選手ではなく、学の時だけ叫び声が飛ぶ。
「マナブ、行けー!」
「勝負だ、勝負!」
「撃てー!」
「マナブー!」
深く突破するとともに後押しの声はさらに大きく、野太く。
これだけ期待させてしまう選手はそういない。だが、後はフィニッシュ。現状の代表に選ばれているメンバーとの差はそこにある。
分かりやすい結果、つまりは得点にこだわって欲しい。リズムに乗れれば、こんなレベルにいる選手ではない。
学のドリブルでワクワクさせられるのは何もマリノスサポーターだけではない。学なら、日本中を沸かし、世界を驚かせることだってできる。
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