俊輔はあえてゴールマウスから目線を逸らし、中央で待つ味方の選手ばかりを見ていた。直接狙える距離、角度だったが、あまりにもキッカーがゴールを見ないため、ほんの一歩、一歩半だけ大分のGK清水が前に動いた。俊輔は試合後にそう述懐している。その動きを見て、確信的にゴールを目がけて思い切って蹴った。
テレビ画面からも聞こえてきた。ずどん、という音。マリノスを優勝にまた一歩近づける、勝利の音。まもなくハーフタイムという時間だった、大分がプラン通り凌ぎかけていたのに、またしても魔法の左足がゴールをこじ開けた。
今のマリノスには約束されたスコアが1−0なのだろう。後半、マルキのバーをたたくヘディングも、アディショナルタイムの藤田のダイレクトシュートがGKに弾かれたときも、なんで入らないんだよっ!とツッコミはしたものの、結局は美しい1−0の試合のスパイスだった。決めるべきところで決めて、締めるところは締める。危険なにおいはほぼない。中澤の気の利いたポジショニングと、ファビオに対するポルトガル語での的確なコーチングは1−0の局面においてこそ美しさを増す。
それにしても大分はなぜ最下位にいるのだろうか。個を持たざる者らしく、2列目までは高いプレッシャーをかけてマリノスに攻撃のリズムを作らせない。過剰なまでのプレス。けれども、バイタルまでボールを持ち込まれると一切無理をせずに最後で跳ね返すことを徹底する。攻撃ではなかなか形を作れなかったが、木村のキックは精度が高く、途中出場の後藤はスピードでかき回していた。高松や森島という肉弾派が欠場する中で、スピードのある選手で勝負をするのも明確でよかったのだがなあ。マリノスとやるときの大分はちっとも弱くなんかない。
2試合連続のウノ・ゼロ(1-0)は今季初。なんとリーグ8年ぶりの記録。だがこの日生まれた記録はこんなものではない。
まずは、5試合連続の完封は、クラブ新記録。何と言っても榎本哲也はえらい。今日はほとんど危ない場面はなかったが彼なくしてこの記録は語れない。
次に中村俊輔が自己最多記録となるシーズン二桁の10点目を記録した。今日もフル出場で今季のマリノスでは最多出場時間を更新、まったくもってMVP真っしぐらである。
そして直接フリーキックを叩き込んだので、通算17点目のフリーキックとなった。これは従来16点で並んでいた遠藤保仁を抜いて、J歴代で単独最多記録となった。まだまだ決められるキックもあったから、これからも練習しますと俊輔の試合後の談話。やはり彼にこれで満足という気持ちなど微塵もない。
もう一つ、積み重ねてきた59という勝ち点についてだが、これは21世紀に入ってからは年間勝ち点の最多タイ記録である。年間優勝した04年に、まだ2ステージ制だったが通算勝ち点で59を記録している。このときはまだJ1が16チームだったから一概には比べられないが、ここから先、つまり勝ち点60以上はマリノスにとって未知の領域となる。もちろん18チームによる1ステージ制になった05年以降ではすでに新記録の勝ち点だ。ここからどのくらい積み上げられるかで優勝の行方は決まるわけだ。
その点、毎試合が決勝と語るドゥトラは一試合出場停止でエネルギーがみなぎっていたのか、とにかく攻め上がる。パスコースを消す大分の守備に対して自分で持ち込んで打開しようとする姿勢も素晴らしい。やっぱベテランはすごいや。マルキも得点こそあげられなかったが、守備での貢献も高く、キープ力は相変わらずすごいから味方が安心してあがることができる。
中町、富澤は、大分の作戦で中盤がなくされたにもかかわらず、実に豊富な運動量で攻守に大きく貢献。頭がいいボランチはすぐに修正してしまうのか。学は好調を維持しているようで、後半に消えた時間がながかったのは気になったが前半の突破力があれば必ずや勝負所でまたファインゴールを決めてくれるだろう。
兵藤も無事に帰ってきた。少しゲームに入りにくそうに見えたが、やはり兵藤がいてこそのマリノスだ。これから名古屋戦まで2週間空くから、きっちり回復して、もう一度コンディションを仕上げてほしいものだ。
マリノスだけでなく、浦和、広島、鹿島が勝利したため、上位に大きな変動はなし。唯一、鳥栖に苦杯を舐めたC大阪がマリノスに9点離されたため、優勝の目はほぼなくなった。他チームも星を落とさないなら、悲願の優勝に向けては一歩一歩、自らの足で近づくしかない。
ただ優勝争いの1試合は本当に楽しく、本当に面白い。そして見てる方も消耗する。でもこんな前向きな疲れは大歓迎だ。
首位として迎えるまた明日からの平日も格別じゃないか。次は名古屋戦。4万人は必達で行きたい。クライマックスでも、主役の座は絶対に譲らない。
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