【保存版】中村俊輔がシャーレを掲げる

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苦労を苦労と思わない苦労人・藤田祥史は、這い上がる。J2からJ1へ、さらにその上へ

昇格や降格を繰り返すクラブを、俗にエレベータークラブなどと呼ぶ。そして、選手個人にフォーカスしても、昇格降格を繰り返すなんて珍しくない。けれども、たぶん落ちたら落ちっぱなしの選手の方が多い。一度下げたカテゴリーを取り戻すのは僕たち素人が想像する以上に狭き門で、基本的には自分の所属クラブを昇格させるか、上のカテゴリーのクラブに拾われるか、の二つしかない。その意味で下がった後に、上がるチャンスを逃さずに上がる選手はそれだけですごい。

藤田祥史、30歳で大卒8年目。J2で5年を過ごした。個人での昇格は、今年のF・マリノス加入で二回目となる。J2からスタートして、J1に上がり、また落ちた後に、再び這い上がってきた。185cmの長身で空中戦に強いが、まずはハードワーカー。派手さはないけど、ハードワーカー。現在、マルキーニョスがあまりにも凄くて、先発の機会はほとんどないけれども、途中出場の際は、まず藤田が一枚目のカードとしてきられることが多い。ゴツイ見かけによらず声がベッカムのように高温な関西人。

マリノスのシステムは1トップのため、藤田が先発から出るには、マルキーニョスを超える必要がある。口で言うのは簡単だが、何せ外国人歴代最多のゴールゲッターで、総合の通算得点ランキングでも三位というとんでもないレジェンドだ。体調管理にも抜かりはない。マルキが万全でなければマリノスの優勝争いは覚束ないほどの存在で、マルキが万全なら藤田の出番はそうは増えないだろう。

経歴は苦労人を思わせる。

2006年、鳥栖でプロ生活をスタートさせた藤田祥史立命館大では三年からレギュラー定着し、得点王などそこでの活躍が認められた形だった。プロ2年目に24ゴールをあげ日本人得点王になり、09年に大宮から声がかかり初めてのJ1挑戦。だが10年には試合出場がほとんどできずに戦力外に。11年横浜FC、12年千葉とJ2で二年を過ごす。

千葉では記憶に新しい、昇格プレーオフにも出場し、前年に所属した横浜FCを相手に2ゴールの活躍で昇格に王手。だが、大分の前に無得点で敗れ、チーム昇格の夢散る。そんなところに飛び込んだマリノスからの誘いだった。昨年の藤田はリーグ36試合で15ゴールをあげていた。千葉で久しぶりに働き場を得た思いもあったろう。本当はお世話になったチームと一緒に上がりたい、しかもあと一歩のところまで逃したから来年こそはという思いは強い。だけど活躍できたからこそ飛び込んできたJ1からの誘いの魅力は強い。またあの場所に戻れる。もう一度、もう一度J1で勝負してやる。

藤田の回想がクラブ情報誌「TRICOLORE」に載っている。

藤田:僕自身悔しい思いのあとだったので、千葉に残ってもう一度J1を目指すつもりでした。でも大宮の時、試合に出られなくて結果も残せなかったので、J1でもう一度挑戦したい思いがずっとあったんです。年齢的にも今行かないと後悔すると思って移籍を決めました。8年で5クラブ目。激動です。J1から落ちたのに、またJ1に戻れた。もうね、奇跡ですよ(笑)。

この前向きに挑戦する心が、いつも藤田の道を切り拓いてきたのかもしれない。そして置かれた環境でベストを尽くすのが藤田流ということなのだろう。そして奇跡を手繰り寄せた藤田の、エレベーターの宿命に抗う戦いの日々は続く。

藤田:見返してみると、試合に出られなかった時期もあるけど。苦だと思ったこともない。それは好きなサッカーを職業にできているからで、本当に幸せなことやと思いますね。

幼少時代からエリートで王様だった選手が、やがてJリーガーになるパターンが多いはずだが、藤田は中学でもろくに試合に出られない選手だったという。でも人並外れた体躯と、前向きな努力が彼をJ1の舞台へ押し上げた。皆が皆、エリートじゃつまらない。栄光何するものぞ。

先発メンバーが固定化されるマリノスにあって、新戦力のフィットには時間がかかるもの。藤田もとても器用なタイプではないだけに連携をよくするのに必死だったろう。しかも出場時間が少ない中で改善した姿を見せないといけない。特にマルキーニョスからの信頼が得られなければ、出場してもパスが来ない。

そんな二人で点をとったのが先の鳥栖戦における決勝点だった。マルキーニョスのミラクル・バイシクルに注目が集まったが、そのボールを渡したのは中央でDFに競り勝った藤田だった。ほぼ高いボールは弾き返されてたのに、出場間もない藤田がいきなり仕事をしてみせた。ゴール後、藤田にもたくさんの味方選手が集まったことがこのプレーの重要さを物語っているだろう。

さて、FC東京戦。3月の前回の対戦では出場停止だったマルキーニョスに代わってスタメンで出た藤田が2得点し、勝利したゲンのいい相手だ。

また先発じゃないかもしれない。が、みんな見ている。試合前のアップでも最後まで六反を相手にシュートを繰り返している姿を。与えられるわずかなチャンスで、決定的な仕事をするためにそっと牙を研いでいるんだろう?

苦労人とは、僕らが勝手に思ってるだけ。本人は苦労とも思ってないらしい。が、人知れず、いつ報われるとも知れず、努力し続けられる人は限られている。だから、やはり僕は敬意を込めて苦労人と呼びたい。

大輪の花を咲かせなくてもいい。エースFWのお膳立てでもいい。J1の頂点に向かうチームの力になってくれればそれでいい。そんな役割ができる選手が輝けば、マリノスはもっと力強く、若手も腐らない魅力的なチームになる。

ただできれば、また藤田のゴールが見たい。そしてヒーローインタビューが見たい。それはできることなら、今週末がいい。

http://soccer.blogmura.com/f-marinos

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