バックヘッドは、決まるも八卦、決まらないも八卦。ボールを頭頂部にヒットする瞬間、ゴールマウスは視界に入らない。だから成功率が高いとは言えない選択肢。ゴールの方角を向いていた体を急に逆向きに体を捻る、ニュートン力学的には無駄な動き。だから、ボールの方向を制御するために体が弓なりになる、その姿が美しい。飛んできたボールのスピードを殺さずに、かつ自分が意図する向きにボールの流れを変える繊細なタッチ。普段は正確無比な優しいパスで味方を走らせる俊輔が自分で走る。もう、そう書いただけで、彼がヘディングをかましただけで幸せな気持ちになる。
ゴールの直前、俊輔は、ルーズボールの競り合いの際に、頭を抑えて倒れ込んでいた。競り合いの中で、相手の肘が頭に入ったからだ。なのにも関わらず、前半23分に頭を使って先制点をもたらす。
中町公祐から柔らかいボールが入る。その落下点にいち早く、鳥栖のDFに悟られない動きで、スルスルッと忍び込む中村俊輔。寄せてくるDFに背中を向けて、ゆるやかに落ちてきたボールを、もう一度空に向けて浮き上がらせる。まるでビーチボールのような軌道。本人は狙ってないというけれど、そりゃ狙ってできるシュートでないからでしょう。でもスローを繰り返しみると、見えないはずのゴールマウスに向かうように腰から上をひねる動き。
厳密には俊輔の「狙う」は数センチ単位のコースの話だろうけど、一般的なサッカー選手の感覚ならあれは狙ってると言えるのでは。キーパーをあざ笑うかのようなループ性のボールは、まるでスラムダンクの三井寿の3ポイントのように、誰にも届かない高さから少しずつ落ちて来て、パサッとネットを揺らした。
美しいバックヘッド。あんなにクソ暑い中でも、足が痛くても、俊輔はトップフォームを維持している。マリノスの中で誰よりもボールを失わないように踏ん張る。そして決定的な仕事をする。ヘディングゴールは12年ぶり4点目だそうだけど、貴重なものを見てしまった!
あまりスタジアムに通ってない人、俊輔の近況を知らない観客が近くにいるとこう感想を漏らすのをよく聞く。うわっ、俊輔うまい。えっ、こんなに守備するの。
…いや、普通ですが。もう平均点が高すぎるだけなの。今年の標準スペックです。テクニックとコンディションはもうね、今年ずっと高いの。鳥肌ものの高さ。
そこにドゥトラやマルキーニョスらに「タイトルを取りにいくぞ!」と魂が入ってるから。心技体が揃ってしまった。これが中村俊輔のハイエンドモデルじゃないかな。
何回でも言うけれど、このMVP級の俊輔がいれば、マリノスは優勝できる。というか、タイトルを取りたい。あのバックヘッドのような小さな奇跡をもう何回か手繰り寄せて。そりゃもう早い段階で、J1新記録となるFKゴールを堪能させてもらって。餌食となるのは次節の権田か、悪くないな。俊輔「やっぱFKすね。きょうも決められなかった。また練習するしかないすね」 次節、めちゃ期待してます。
40歳と37歳の同僚のヒーローインタビューを見たあとなら、やはり35歳の俊輔はまだまだいけると思わせられているはず。一番の代えの効かない選手、リーグMVP最有力候補とどこまでも。
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2013/08/10 19:04キックオフ ニッパツ三ツ沢球技場
【入場者数】13,427人【天候】晴 32.8℃ 64%
【主審】家本 政明【副審】相樂 亨/山内 宏志
1 後半 1
10 SH 10
4 CK 5
20 FK 12
【得点】 23' 中村 俊輔 56' 早坂 良太 76' マルキーニョス
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