【保存版】中村俊輔がシャーレを掲げる

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あの日、確かに歴史が動いた(Jリーグクロニクル・第4位 1993年Jリーグ サントリーシリーズ・第1節 V川崎対横浜M)

レーザー光線、花火、巨大フラッグ、ムクムクと膨らむ、ボールの顔をした初代マスコット。30分の間に1億3千万円がつぎ込まれたというオープニングセレモニー、断片的な記憶しかないあの伝説の試合。

国立競技場って昔オリンピックやったとこでしょ、早稲田と明治のラグビーもやると思ってたら、サッカーもするところだったのか! へぇ、たった10チームでリーグ戦やるの、あっ、でもプロ野球は12球団で2リーグだから、むしろいろんな対戦が見られるのか。

えっ、週に二回、水曜と土曜日しか試合しないの? もっといっぱい試合したほうが儲かるだろうに。(それにしても年間ずーっと週二試合を続けたんだから、ものすごい過密日程だ)

鹿島、どこそれ? 市原、どこそれ? 横浜と川崎に計3チームいて、東京はナシ? そんなのっておかしくないか。だれも地域バランスを見てないのか?

野球しか知らない中学生の僕にとってはすべてが斬新すぎた。とくに喧しいチアホーンの音は、あっという間に当たり前の音になって、そして消えた。

時折、両チームのベンチが映る。陽の松木ヴェルディの監督で、陰の清水がマリノスの監督なわけだが、そんなシュールな対戦だったとは当時は知る由もない。

マリノスのスタメンは、GK松永、DF平川、勝矢、井原、小泉、MF野田、エバートン、水沼、木村、FWビスコンティ、ディアス

ヴェルディは、GK菊池、DF中村、ペレイラ、加藤、都並、MF柱谷、ハンセン、ラモス、FWマイヤー、武田、三浦

開幕の直前に日本代表戦が行われていたから、両チームの何人かは知っていたとか、そういうレベル。今振り返ると、そりゃこの試合が開幕カードに選ばれるよな、というスターぞろいだ。観客は59,626人で今なお、国立で行われたJリーグの試合としては最多の観客試合として記録されている。

スカパーの解説、水沼貴史は当時33歳、ヴェルディとのライバル関係やJSL時代からの環境の激変など、いち選手として味わったエピソードが紹介される。

もっとも印象的だったのは、冒頭のオープニングセレモニーのくだり。選手はアップをするから、ピッチでじっくりセレモニーの様子を見ることはできない。「チラッと見ただけなのに、涙をこらえるのに大変だった。選手入場の際に顔を合わせたヴェルディの選手も何人も泣いていた」という。

サッカーになど、ほとんどの国民が見向きをしなかったというのが、このJリーグ開幕を境にいかに変わったか。誰だって多くの観客の前でプレーしたいわけで、これはプロスポーツとして、ものすごいスタートを切ったわけだ。誰も知らない、から知らない人はいないへの天地がひっくり返るような転換。

一般市民の僕ら、中学生も変わった。サッカーやりもしないのに、ミサンガをつけた。学校カバンにつくキーホルダーや、ハンカチが急にカラフルな各クラブのデザインに変わった。しかもクラスの半分くらいが一斉に。

思えば90年のイタリアW杯の中継を見ていた父がいろいろ教えてくれた。マラドーナのアルゼンチンが有名だけどブラジルのほうが優勝回数が多い。第二次世界大戦で、日本と三国同盟で手を組んだ西ドイツとイタリアはサッカーは相当強くて、日本だけやたら弱い(なんていう例えだ) 。アジア最強は韓国で、野球ではまず負けないがサッカーではまず勝てない、とか。

で、そんな日本はW杯に過去何回出場したか?というひっかけ問題の答えがゼロと聞かされたときは驚いた。が、野球の国だから、しょうがないと思っていた。

それがあの日、変わった。

選手たちは張り切っている。三浦知良のポジションは右サイドハーフ、攻守によく走るし、水沼の縦への突破にヴェルディの都並は手を焼き、倒して止めたらJリーグ第一号の警告を受けてしまう。ラモス、木村和司の両ベテランはプレッシャーを受けながらもテクニックで巧みにそれを交わす。これが開幕戦で、これから先何十年と続いていくのにまるでこの一試合だけが特別な球宴かのような高揚感が画面からずっと伝わってくる。

試合の中身とか、経過じゃなくて、この祝祭の雰囲気がいい。ハイライトじゃなくて、一試合きちんと堪能することによる満腹感がいい。サッカーはそうやってわずか2時間で振り返ることができる。つくづく、このスカパーのベストマッチ一挙放送は素晴らしい企画だと思う。

マリノス好きとして、子供が大きくなったら、歴史の重みを感じる教材として見せたい。彼は彼の中でベストマッチをストックして、さらに若い世代に伝えてほしいものだ。映像バンザイ、歴史バンザイである。

マイヤーの先制ゴールの印象があまりにも強くて、この試合勝ったのはヴェルディだと記憶違いしている、元レッズ福田正博氏のような人のために、念のため補足する。前半はヴェルディの1点リードで折り返すが、後半開始間もない48分にエバートンが決め、さらに59分にディアスのゴールでマリノスが逆転した。2-1でマリノスが歴史的な1勝をあげたのだった。

ただ、すごいのは試合後、両チームの選手が入り乱れて飲み会をしたんだそうだ。

http://s.ameblo.jp/go-football/entry-11530894321.html

こちらにラモスの証言が載っている。

「試合後、俺たちもようやくここまできたなってみんなで飲んでたら、水沼とか井原も騒ぎに来て、喜びを分かち合った。試合には負けてるし、相手はライバルだよ。でも、ここまできたぜ、もっと頑張ろうぜ。そういう気持ちのほうがすごかったんだ」

たったリーグ戦の一試合、それも最終戦でなくて開幕戦で。そんな飲み会ってもう絶対に開かれないだろう。日本サッカーのステージを押し上げた者だけに許されたお疲れ会。もしそんなことが再びあるとしたら、それはJリーグが終わる晩かもしれないな。

よせやい、縁起でもない。この試合をスタンドで見てた中村俊輔はそのとき本人が描いていた以上の姿でリーグに君臨している。別に自分のクラブのトップチームをおうえんしよう!とか、そんな気持ちはなく、カズやラモスに、和司にただ見とれていたらしい。

だから、きっと20年後も今何の気なしにスタジアムに連れてこられてる少年たちが、Jリーグを、日本サッカーを引っ張っているに違いない。

http://soccer.blogmura.com/f-marinos

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